薬剤師のこたろーです。
2026年8月、ヨーロッパ心臓病学会(ESC)が、心不全の診療ガイドラインを改訂しました。2021年版以来の改訂です。「HFmrEFがなくなった」「GDMTという言葉を使わなくなった」といったニュースを見かけた方もいると思います。
この記事では、薬剤師として押さえておきたい変更点を、日本のガイドラインとの違いもあわせて整理します。
先に私の感想を言うと、実臨床としては、そこまで大きくは変わらないと思っています。なぜなら今回のESCのガイドラインの改訂がエビデンスに基づいた治療介入を迅速に導入させることを目的としているようなので、その点、今の日本の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」はステージ分類と早期治療介入の必要性についての考えはすでにあるからです。
ただ、今後の日本のガイドラインの改訂でもESCに合わせてEFの基準、MRAの推奨度などは変わってくるかとは思います。
ESC公式:2026 ESC Guidelines for the management of heart failure
この記事のまとめ
・ESCの2026年版でHFmrEFがなくなり、HFrEF(LVEF 50%未満)とHFpEF(50%以上)の2つに
・MRAが、LVEFにかかわらず症状のある心不全の「基礎となる治療」に。HFpEFでもクラスIになり、HFrEFではステロイド型、HFpEFではフィネレノン(非ステロイド型)と考えるのがよさそう
・治療の呼び方が変わった:GDMT → FMT・AMT・GDIT、「急性心不全」→「非代償性心不全」
・日本の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」は、HFmrEFは残っている。日本の診療は、日本のガイドラインに沿うのが基本、ただ、今後の改訂ではESCに合わせてくる可能性も。
この記事は、ガイドラインや医療ニュースをもとに、要点を私の言葉でまとめたものです。ガイドラインの文章や図表を転載・翻訳したものではありません。正確な内容は、記事の最後にある出典で確認してください。また、個々の患者さんの治療は、主治医の判断によります。
2026年版 ESC心不全ガイドライン改訂点まとめ
ESCの公式ページでは、今回の改訂の柱として、LVEFによる分類の見直し(簡素化)、ステージ分類の追加、治療の呼び方の見直し、新しいエビデンスにもとづく推奨の更新が挙げられています。この記事では、このうち薬剤師に関わりが深いところを順番に見ていきます。
ポイント1:HFmrEFがなくなり、HFrEFとHFpEFの2つに
いちばん大きな変更は、LVEF(左室駆出率)による分け方の改訂です。2021年版では3つに分けていましたが、2026年版ではHFmrEF(LVEFが軽度低下した心不全)がなくなり2つになりました。
| 分類 | 2021年版 | 2026年版 |
|---|---|---|
| HFrEF | 40%以下 | 50%未満 |
| HFmrEF | 41〜49% | なし(HFrEFに含まれる) |
| HFpEF | 50%以上 | 50%以上 |

HFmrEFをなくした理由として、次の点が挙げられています。
- LVEF 41〜49%の人だけを対象にした大規模な臨床試験がない
- これまでHFmrEFとされていた人は、病態や治療への反応がHFrEFに近い
つまり、これまでHFmrEFとされていたLVEF 41〜49%の人も、ESCではHFrEFとして扱われるということです。後で出てくる4剤「ファンタスティックフォー」の対象に入ります。
とはいえEF45%の方とEF20%の方を同じように扱ってよいかと聞かれるとそういうわけでもなく、結局患者個々の病態に合わせて治療をすることには変わらないようです。HFmrEFをHFrEFの分類にまとめたのは適切な治療介入を迷わずできるようにするための実用的な判断のようです。
ステージA〜Dの分類も取り入れた
2026年版ではステージA〜Dの分類も取り入れられています。ESCのステージは次のとおりです。
なお、日本の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」にも、AHA/ACCのガイドライン、今回改訂となったESCのガイドライン同様にステージ分類があります。こちらは日本で働く薬剤師にはなじみのある考え方だと思います。
| ステージ | 状態(ざっくり) |
|---|---|
| A | 心不全のリスクがある。症状も、心臓の構造の変化もない |
| B | 前心不全。心臓の構造・機能の異常やバイオマーカーの上昇はあるが、症状はない |
| C | 症状のある心不全(いま症状がある、または以前にあった)。HFrEFとHFpEFに分ける |
| D | 進行した心不全。治療を尽くしても重い症状や入院をくり返す |
ポイント2:MRAの位置づけが変わった
薬物治療での大きな変化は、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)です。
| 2021年版(2023年の一部改訂後) | 2026年版 | |
|---|---|---|
| HFrEF | クラスI | クラスI(基礎となる治療) ステロイド型(スピロノラクトン・エプレレノン) |
| HFmrEF | クラスIIb | (HFrEFに含まれる) |
| HFpEF | 推奨なし | クラスI(基礎となる治療) 非ステロイド型(フィネレノン) |
2021年版(2023年の一部改訂後)のHFpEFでクラスIだったのは、SGLT2阻害薬、うっ血の症状緩和のための利尿薬、併存疾患の治療の3つで、MRAは併存疾患の治療の中で考慮する程度でした。
2026年版では、MRAは、LVEFにかかわらず症状のある心不全にクラスIで推奨されています。ただし、ステロイド型と非ステロイド型を同じものとして扱うのではなく、HFrEFではスピロノラクトン・エプレレノン(ステロイド型)、HFpEFではフィネレノン(非ステロイド型)と考えるのがよさそうです。
この背景には、LVEF 40%以上の心不全を対象にしたフィネレノンの試験(FINEARTS-HF)などの結果があり、それがガイドラインに反映された形です。
日本では:フィネレノンに慢性心不全の適応が追加された
ESCでHFpEFのMRAとして挙げられているフィネレノン(ケレンディア)は、日本でも2025年12月22日に「慢性心不全」の適応が追加されています。
日本の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」では、HFmrEF・HFpEFに対して、フィネレノンが推奨クラスIIa、スピロノラクトン・エプレレノンがIIbです。ESCのように「基礎となる治療(クラスI)」にはなっていませんが、ここも今後変わってくるのかと思います。
ポイント3:治療の呼び方が変わった
治療の呼び方も新しくなりました。これまで使われてきた「GDMT」は、どこまでを含むのかについて意見が完全にはそろっていなかったため、治療の位置づけをよりわかりやすくしたようです。
| 新しい呼び方 | 意味(私の訳) | 中身 |
|---|---|---|
| FMT foundational medical therapy | 基礎となる薬物治療 | クラスIで、死亡や入院を減らす薬。 HFrEF:β遮断薬・RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB/ARNI)・MRA・SGLT2阻害薬の4剤 HFpEF:MRA+SGLT2阻害薬 |
| AMT additional medical therapy | 追加の薬物治療 | クラスIIa・IIbの薬や、症状・生活の質の改善が根拠のクラスIの薬、一部の患者さん向けの薬。例:イバブラジン、ベルイシグアト、ジギタリス |
| GDIT guideline-directed interventional therapy | ガイドラインにもとづく、デバイスやカテーテルなどの治療 | 植込み型のデバイス(CRTなど)や、カテーテル治療(TEER) |
※日本語の訳は、私が勝手に訳したものです。
もう1つ、「急性心不全(acute HF)」は「非代償性心不全(decompensated HF:DHF)」という呼び方に変わりました。心不全の増悪としては数日かけて悪化していくケースもあり、急性という言葉がふさわしくないという考えのようです。
| これまで | 2026年版 |
|---|---|
| GDMT | FMT/AMT/GDIT |
| 急性心不全(acute HF) | 非代償性心不全(decompensated HF) |
| HFrEF/HFmrEF/HFpEF | HFrEF/HFpEF |
| (ステージ分類なし) | ステージA〜D |
そのほかの主な変更
薬剤師に関わりがありそうなものを、いくつか挙げておきます。
- SGLT2阻害薬:非代償性心不全で入院中でも、状態が落ち着いたら開始する。
- FMTの増量:1〜2週ごとに、試験で使われた目標用量に向けて増やす。症状やLVEFが良くなっても、最大の耐えられる量で続ける。
- GLP-1受容体作動薬:症状のある心不全で、LVEF 45%以上・BMI 30以上の人に、セマグルチドかチルゼパチドを考慮する(クラスIIa)。これとは別に、2型糖尿病で心血管リスクが1つ以上ある人には、心不全の発症予防として考慮する(クラスIIa)。
GLP-1受容体作動薬の「LVEF 45%以上」は、HFpEFの区切り(50%以上)とは別の数字なので注意が必要です。日本で使う場合は、それぞれの薬の適応を添付文書で確認してください。
日本のガイドライン(2025年改訂版)との比較
日本の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心不全学会)と比べると、次のとおりです。
| 項目 | ESC 2026年版 | 日本 2025年改訂版 |
|---|---|---|
| LVEFによる分類 | HFrEF:50%未満 HFpEF:50%以上 | HFrEF:40%以下 HFmrEF:41〜49% HFpEF:50%以上 +HFimpEF(最初が40%以下で、10%以上改善して40%を超えた) |
| ステージ分類 | A〜D(今回取り入れた) | A〜D(心不全リスク/前心不全/症候性心不全/治療抵抗性心不全) |
| HFpEFでのMRA | クラスI(基礎となる治療) | フィネレノン:IIa スピロノラクトン・エプレレノン:IIb (HFmrEFも同じ) |
| 治療の呼び方 | FMT/AMT/GDIT | GDMT |
出典:日本循環器学会「ガイドライン」(2025年改訂版 心不全診療ガイドライン)(2026年10月17日確認)
ESCはヨーロッパの学会のガイドラインです。日本で診療や服薬指導をするときは、日本のガイドラインと添付文書に沿うのが基本です。
在宅の薬剤師として感じたこと
ニュースだけを見ると大きな改訂に見えますが、私は実臨床としては、そこまで大きくは変わらないと感じています。
今回のESCの改訂の目的としては、ステージ分類を明記して心不全患者への早期介入を促し、さらに曖昧だったHFmrEFの位置づけをはっきり(簡素化?)させ、最新の薬物治療の位置づけを明記(MRAの記載)して、エビデンスに基づいた治療介入を迅速に導入させることのようです。
ステージ分類の考え自体はすでに日本のガイドラインにはあり、早期からの治療介入が必要とされていますので、今回のESCのガイドライン改訂を受けて変わるとしたら、日本のガイドラインも、より迅速にエビデンスに基づいた治療を導入する方向に変更していくのではないかと思います。
私が受験を予定している心不全療養指導士については、受験を決めた理由や、申請までの流れ・費用をこちらにまとめています。
受験に必要な症例報告書の書き方は、こちらで詳しくまとめています。
まとめ
- ESCの2026年版で、HFmrEFがなくなり、HFrEF(50%未満)とHFpEF(50%以上)の2つになった
- MRAが、LVEFにかかわらず症状のある心不全の「基礎となる治療(クラスI)」に。HFrEFではステロイド型、HFpEFではフィネレノン(非ステロイド型)と考えるのがよさそう
- 治療の呼び方は、GDMT → FMT・AMT・GDITに。「急性心不全」は「非代償性心不全」に
- 今回ESCの改訂のもととなる考えはすでに日本にはあるものと思われるので、実臨床は大きくは変わらないかと思いますが、ESCに合わせて日本のガイドラインも近づけていくのではないか。
参考にした資料
- ESC「Heart Failure Guidelines」(2026 ESC Guidelines for the management of heart failure)
- Køber L, Adamo M, et al. 2026 ESC Guidelines for the management of heart failure. Eur Heart J. doi:10.1093/eurheartj/ehag100
- TCTMD「Updated ESC Heart Failure Guideline Brings Big Changes」
- AJMC「5 Things to Know About the 2026 ESC Heart Failure Guidelines」
- HCPLive「2026 ESC Guidelines for Heart Failure Redefine Disease and Treatment Subtypes」
- Guideline Central「2026 ESC Management of Heart Failure Guideline Now Available」
- GPcardio「New 2026 ESC heart failure guideline」
- MDedge「Recent leaps in heart failure therapy spur ESC guideline–focused update」(2023年の一部改訂)
- 日本循環器学会/日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」
- ケアネット「フィネレノン、慢性心不全の適応追加/バイエル」(2025年12月24日)
いずれも2026年10月17日に確認しました。



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