薬剤師のこたろーです。私は総合病院の薬剤部から、在宅特化型の薬局に転職しました。
転職を考えはじめたころ、いちばん不安だったのは「病院を辞めて、自分の知識がほかの職場で通用するのか」ということでした。薬剤師として働いたのはその病院だけで、調剤薬局で働いた経験もありません。保険薬剤師としてやっていけるのかも不安で、なかなか転職に踏み切れませんでした。
この記事では、実際に在宅で働いてみて感じた「これができれば在宅でも通用する」スキルを、病院のどんな経験で身についたかとあわせてまとめます。
同じような不安を抱えて、転職を迷っている病院薬剤師の方の参考になればうれしいです。
この記事のまとめ
・最低限これができれば通用すると感じたのは、①無菌調製(在宅は簡単なものが多く、簡単な手技の経験があれば大丈夫) ②輸液・配合変化(調べ方を知っていればOK) ③緩和領域の知識(NRSでの疼痛評価、排便コントロールなどの支持療法)の3つ
・できればなおよしは、④医師・看護師との連携 ⑤フィジカルアセスメントでの副作用の評価の2つ
・無菌調製は外来化学療法の混注やTPNのミキシングで、輸液はICUなどの集中治療領域で、緩和の知識は外科病棟での疼痛評価で、連携は病棟業務やNSTで身につけた
・在宅で新しく覚えたのは、保険や介護の仕組みと、「生活を支える」介護の視点
・転職前はかなり不安だったが、病院で培った知識は大きな武器になり、新しい職場でも十分に活かせた
在宅で通用すると感じたスキルの一覧
先に、全体をまとめておきます。あくまで、私が在宅特化型の薬局で働いてみて感じたことです。
| スキル | 病院で身についた経験 | |
|---|---|---|
| 最低限① | 無菌調製(簡単な手技の経験があれば大丈夫) | 外来化学療法での混注、TPNのミキシング |
| 最低限② | 輸液・配合変化(調べ方を知っていればOK) | ICUなどの集中治療領域、注射の調剤 |
| 最低限③ | 緩和領域の知識(NRSでの疼痛評価、排便コントロールなどの支持療法) | 外科病棟での病棟業務(がん末期の患者さんの疼痛評価など) |
| なおよし④ | 医師・看護師との連携 | 病棟業務、NST(カンファレンス・回診) |
| なおよし⑤ | フィジカルアセスメントでの副作用の評価 | 知識は病院で学び、実践は在宅に移ってから |
最低限これができれば通用する3つのスキル
① 無菌調製ができる(簡単な手技の経験があれば大丈夫)
1つ目は、無菌調製です。といっても、在宅で出会う無菌調製は、簡単なものが多いです。たとえば、次のようなものです。
- 既製品の高カロリー輸液(エルネオパなど)に、ファモチジンを混注するだけ
- 麻薬と生食を、ポンプのカセットに詰めるだけ
そのため、簡単な手技を経験しているだけでも、問題なく対応できます。
私は病院の外来化学療法で、1日15人ほどの化学療法のレジメンの混注をしていて、複数の患者さんの抗がん剤の混注を同時に進めていました。高カロリー輸液(TPN)も、既製品だけでなく、患者さんごとの組成でミキシングすることが多くありました。ただ、在宅で働く上では、そこまでできなくても大丈夫です。
ちなみに、転職先には病院で働いた経験のある薬剤師がほとんどおらず、無菌調製ができる薬剤師は多くありませんでした。
② 輸液や配合変化は「調べ方」を知っていればOK
2つ目は、輸液や配合変化です。知識をすべて覚えている必要はありません。調べ方を知っていれば、問い合わせにも問題なく対応できます。
在宅でも点滴を扱うことがあり、中には配合変化に注意が必要な薬もあります。点滴のルートがどうなっているか分からないときは、訪問看護師さんに確認し、必要であれば前後のルートフラッシュ用の生理食塩液をクリニックに処方提案することもありました。
私は病院で、ICUなどの集中治療領域を担当していたこともありましたので、輸液や配合変化を勉強する機会も多かったです。輸液の知識は、病棟だけでなく調剤室での注射の調剤でも学ぶかと思うので病院で働いた経験がある方なら、問題なく学べているはずだと思います。
私がよく使っているのは、大塚製薬工場の医療関係者向けアプリ「輸液マイスター」です。輸液製剤の組成を一覧で確認できるアプリで、私は配合変化を調べたり、処方した輸液が薬局在庫としておいていない場合に組成の近い代替品を探して提案したりするときに使っています(利用には、同社の医療関係者向け会員サイトへの登録が必要です)。
また、在宅では皮下点滴が多いです。添付文書に皮下投与の用法が書かれていない薬でも、医師の判断で皮下から使われるケースは割と多くあります。そうした場面で私が参考にしているのが、南山堂の『症状緩和のためのできる!使える!皮下投与』という本です。
③ 緩和領域の知識がある
3つ目は、緩和領域の知識です。たとえば、
- オピオイドを使っている患者さんの疼痛コントロールを、NRS(痛みを0〜10の10段階で評価)で評価する
- 排便コントロールなどの支持療法全般の知識
私は病院の外科病棟での病棟業務で、がん末期の患者さんへのオピオイドの疼痛コントロールの評価なども行っていました。この経験が在宅でも役立っています。
緩和領域で私がよく参考にしているのは、聖隷三方原病院の森田達也先生の『緩和治療薬の考え方、使い方』(中外医学社)です。私が使っているのはver.3です(最新版はver.4で、2026年6月に発行されています)。
できればなおよし、の2つのスキル
④ 医師・看護師と連携できる
4つ目は、医師や看護師との連携です。
- 患者さんのキャラクターをよく理解し、それも考えたうえで薬学的な視点から意見が言えると、看護師さんやケアマネさんからも信頼される
- 訪問看護師さんからの薬の相談に乗ったり、薬の変更相談に関して医師への連絡を代行したりできると、ありがたがられる
- 多職種に対して、臆せず対応できるとよい
私の場合は、病院の病棟業務で看護師さんと連携する機会が多かったのと、NST(栄養サポートチーム)に所属していたので、多職種でのカンファレンスや回診でも連携を学べました。NSTで学んだ経管栄養剤の知識も、在宅で役に立っています。
⑤ フィジカルアセスメントで副作用を評価できる
5つ目は、フィジカルアセスメントです。特に、心不全の患者さんの療養指導では、できるとよいと感じています。
たとえば、心不全の患者さんに対して、フィジカルアセスメント(あくまで副作用の評価を目的)をしたり、下肢のむくみや体重の増加といった身体所見の変化、食欲などを見たりして、悪化の兆候がないかに気をつけます。
私自身、フィジカルアセスメントや身体所見での評価は、病院ではまったく実践できませんでした。知識としては学んでいたので、在宅に移ってから実践して磨いていきました。
在宅で新しく覚えたこと
一方で、在宅に移ってから新しく覚えたこともあります。
- 保険や介護の仕組み
- 「病気を治す」だけでなく、「病気と付き合っていく」「生活を支える」という介護の視点
病院では「病気を治す」という視点で患者さんに関わることがほとんどでしたが、在宅で介護の領域の方々と関わるうちに、患者さんの生活に目を向けるようになりました。この変化については、こちらで詳しく書いています。
まとめ:病院で培った知識は、在宅で大きな武器になった
転職する前は、「病院を辞めて、自分の知識がほかで通用するのか」と、かなり不安でした。
でも実際には、病院で培った知識は、在宅でかなり大きな武器になりました。新しい職場でも、十分に活かすことができました。
在宅で通用すると感じたスキルを、もう一度まとめます。
- 最低限:無菌調製(簡単な手技の経験があれば大丈夫)/輸液・配合変化(調べ方を知っていればOK)/緩和領域の知識
- できればなおよし:医師・看護師との連携/フィジカルアセスメントでの副作用の評価
MRから病院、在宅へと3回転職してきた全体の流れは、こちらにまとめています。
在宅特化型の薬局では、クリニックへの営業もしていました。営業で実際にやっていたことは、こちらです。




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